大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和50年(ワ)1507号 判決

原告(反訴被告)

寺西久子

被告(反訴原告)

渡辺正臣

主文

被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、金一三八万円および内金一二六万円に対する昭和五〇年一月二九日から、内金一二万円に対する本判決言渡の翌日から、完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告(反訴被告)その余の請求を棄却する。

原告(反訴被告)は、被告(反訴原告)に対し、金四一万七、四〇〇円および内金三七万九、四〇〇円に対する昭和五〇年一月二九日から、内金三万八、〇〇〇円に対する本判決言渡の翌日から、完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、本訴、反訴を通じてこれを一〇分し、その七を原告(反訴被告)の負担とし、その三を被告(反訴原告)の負担とする。

この判決は、原告(反訴被告)および被告(反訴原告)の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告(反訴被告・以下単に原告という。)

(一)  本訴について

被告は、原告に対し、五四五万三、九五二円およびこれに対する昭和五〇年一月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

(二)  反訴について

反訴原告の反訴請求を棄却する。

反訴費用は反訴原告の負担とする。

二  被告(反訴原告・以下単に被告という。)

(一)  本訴について

原告の本訴請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(二)  反訴について

原告は、被告に対し、四八万三、六〇〇円および内四三万三、六〇〇円に対する昭和五〇年一月二九日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

反訴費用は原告の負担とする。

反執行の宣言。

第二当事者の主張

一  本訴請求原因

(一)  原告の身分関係

原告は、訴外亡寺西誠の母であつて、その相続人である。

(二)  事故の発生

1 日時 昭和五〇年一月二九日午後九時二〇分頃

2 場所 名古屋市千種区猪高町大字一社字中根通上一五五四番地の一六〇先交差点

3 第一事故車 被告運転の普通乗用自動車

4 第二事故車 訴外亡誠運転の自動二輪車

5 態様 右の交差点において、東から西へ直進中の第二事故車と、西から進入して南へ右折中の第一事故車とが衝突

(三)  責任原因

1 被告は第一事故車の保有者であつた。

2 被告には前方不注視の過失があつた。

(四)  被害内容

1 訴外亡誠が死亡した。

2 訴外亡誠所有の第二事故車が大破し、修理不能となつた。

(五)  損害

1 逸失利益 二、五二七万六、七四五円

(1) 年収 二〇四万六、七〇〇円

昭和四九年度賃金センサス全産業男子労働者平均賃金

(2) 就労可能期間 五〇年間

(3) 生活費の控除 五〇パーセント

(4) 中間利息の控除 ホフマン式計算法

(5) 逸失利益の現価 二、五二七万六、七四五円

2 慰藉料 七〇〇万円

3 葬儀費 四〇万円

4 第二事故車の破損による損害 三四万七、一六七円

(1) 購入日 昭和四八年一二月一〇日

(2) 購入価額 四一万八、〇〇〇円

(3) 使用期間 一年と四五日

(4) 償却 定額法、残存価額一〇〇分の一〇、年償却率〇・一六六

(5) 事故当時の価額 三四万七、一六七円

〈省略〉

5 相続

以上のうち、訴外亡誠の損害賠償請求権は、相続により、原告が取得した。

6 合計 三、三〇二万三、九一二円

なお、過失相殺として五割を控除し、一、六五一万一、九五六円とする。

(六)  損害の填補

原告は、自賠責保険から一、〇〇〇万円を受領した。

(七)  弁護士費用 三〇万円

(八)  本訴請求

よつて、原告は、被告に対し、以上の残損害賠償金のうち五四五万三、九五三円およびこれに対する本件不法行為の日である昭和五〇年一月二九日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  本訴請求原因に対する被告の答弁

(一)は認める。

(二)は認める。

(三)の1は認めるが、2は争う。

(四)の1は認めるが、2は不知。

(五)は不知又は争う。

(六)は認める。

(七)は不知。

三  抗弁(過失相殺)

訴外亡誠には、黄ないし赤信号の無視、速度違反の過失があつた。

四  抗弁に対する原告の答弁

争う。

五  反訴請求原因

(一)  原告の身分関係

本訴請求原因(一)記載のとおり。

(二)  事故の発生

本訴請求原因(二)記載のとおり。

(三)  責任原因

訴外亡誠には信号無視、速度違反、前方不注視の過失があつたところ、同訴外人は本件事故により死亡したので、その損害賠償債務は、相続により原告が承継した。

(四)  被害内容

被告所有の第一事故車が大破した。

(五)  損害

第一事故車の修理費 五四万二、〇〇〇円

なお、過失相殺として二割を控除し、四三万三、六〇〇円とする。

(六)  弁護士費用 五万円

(七)  反訴請求

よつて、被告は、原告に対し、四八万三、六〇〇円および内弁護士費用を除く四三万三、六〇〇円に対する本件不法行為の日である昭和五〇年一月二九日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

六  反訴請求原因に対する原告の答弁

(一)は認める。

(二)は認める。

(三)は争う。

(四)は不知。

(五)は不知。

(六)は争う。

七  抗弁(過失相殺)

被告には前方不注視の過失があつた。

八  抗弁に対する被告の答弁

争う。

第三証拠〔略〕

理由

一  本訴についての判断

(一)  原告の身分関係

本訴請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  事故の発生

本訴請求原因(二)の事実は当事者間に争いがない。

(三)  責任原因

1  本訴請求原因(三)の1の第一事故車の保有関係事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、本訴請求原因(三)の2の被告の過失の有無について検討するに、成立に争いのない乙第二号証、証人前野勇の証言、被告本人尋問の結果によれば、本件事故現場は、東西に通ずる幅員約三一・五メートルの道路と南北に通ずる幅員約一〇メートルの道路とが交わる信号機の設置された交差点であること、東西道路は高速車につき時速六〇キロメートル、中速車につき時速五〇キロメートルの速度規制が行われていたこと、被告は、第一事故車を運転して東西道路を東進し、本件交差点で南方へ右折しようと青信号で進入したうえ、その中央付近で一旦停止し、折柄対向直進中の西進車の通過を待つたこと、そして、信号が黄に変わり、後続の対向直進車の先頭集団が同交差点手前で徐行を始めたのを察知するや、右折を開始したこと、ところが、丁度その頃、訴外亡誠運転の第二事故車が時速八〇キロメートル以上の高速で右の先頭集団を追い抜き、対向直進してきたことから、第一事故車が右折を完了する直前において、両車が衝突したこと、が認められ、以上の事実によれば、訴外亡誠は、制限速度をかなり超える高速で黄信号を無視し、前方不注視のまま本件交差点に進入したもので、本件事故は同訴外人の右過失が主な原因で発生したものと推認されるが、被告としても、右折をする場合、対向直進車が黄信号を無視して進入してくることは間々あることであるから、対向方面の車両の動静に十分注意すべきであつたところ、これを怠つた過失があつたものと認められる。

3  従つて、被告は、自賠法三条、民法七〇九条により、本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。

(四)  被害内容

本訴請求原因(四)の1の事実は当事者間に争いがなく、同2の事実は成立に争いのない甲第四号証、乙第二号証により認められる。

(五)  損害

1  逸失利益 二、一一二万円(端数調整)

成立に争いのない甲第二号証、第三号証の二、弁論の全趣旨によれば、訴外亡誠は、本件事故当時一七才の健康な男子で、名古屋市内の大脇板金工作所に勤務していたものであることが認められるところ、同訴外人の逸失利益の算定については、次の方法によるのが相当と認められる。

(1) 就労可能期間 五〇年間

事故当時の年齢一七才から六七才までの五〇年間

(2) 年収 二三一万四、八一七円

昭和四九年賃金センサス第一表、産業計、企業計、学歴計、全年齢男子労働者の平均給与年額二〇四万六、七〇〇円に、労働省発表「昭和五〇年民間主要企業春季賃上げ状況」による賃上げ率一三・一パーセント分を加えたもの。

なお、成立に争いのない甲第三号証の一、二によれば、訴外亡誠の昭和四九年の年収は九〇万六、五〇八円であることが認められるが、同年収額をもつて本件逸失利益算定の基礎とすることは、将来の長期にわたる全就労可能期間を通しての年収額を、若年時におけるきわめて低い年収額で固定化するものであつて不合理であり、同訴外人の右年収額が昭和四九年賃金センサスによる一七才男子労働者の平均給与年額七八万九、八〇〇円を上廻るもので、同訴外人は少くとも対応年齢男子労働者の平均的労働能力を有していると推認されること等を考慮に入れると、同訴外人の全就労可能期間を通じての年収額は賃金センサスによる全年齢男子労働者の平均給与年額とするのが相当である。

(3) 生活費の控除 五〇パーセント

(4) 中間利息の控除 ライプニツツ方式

なお、中間利息の控除方法に関し、原告はホフマン方式を主張しているが、複利計算を用いるライプニツツ方式又は単利計算を用いるホフマン方式のいずれを採用するかは結局損害の公平な負担という見地から決められるべきものと考えられるところ、本件の場合、訴外亡誠の収入について、同訴外人の事故当時である一七才時の現実の収入額ではなく、これよりはるかに多額となる賃金センサスによる全年齢男子労働者の平均収入額を基準としていること、同訴外人の就労可能期間は五〇年であるが、ホフマン方式(年別、複式、利率年五分)によれば、就労可能期間が三六年以上の場合、賠償金元本から生ずる年五分の利息額が年間逸失利益額を越えるという不合理な結果になること、等を考慮すると、ライプニツツ方式を採用するのが相当である。

(5) 逸失利益の現価 二、一一二万八、四九二円

2,314,817×(1-50/100)×18,255≒21,128,492

2  慰藉料 六五〇万円

本件事故による被害内容、訴外亡誠の事故当時の年齢、親族関係、その他諸般の事情を考慮すると、慰藉料は六五〇万円とするのが相当と認められる。

3  葬儀費 三五万円

訴外亡誠の葬儀費としては、三五万円について相当と認められる。

4  第二事故車の破損による損害 一八万円(端数調整)

成立に争いのない甲第四号証、経験則によれば、第二事故車の破損による損害は、次のとおり認められる。

(1) 購入日 昭和四八年一二月一〇日

(2) 購入価額 四一万八、〇〇〇円

(3) 使用期間 一年と一・六か月

(4) 償却 耐用年数を三年とし、定率法による。

(5) 事故当時の価額 一八万〇、〇九二円

418,000(1-0.536)(1-0.536×1.6/12)≒180,092

5  相続

以上のうち、訴外亡誠の損害賠償請求権は、相続により、原告が取得したものと認められる。

6  合計 二、八一五円

(六)  過失相殺

前記(三)の2で認定のとおり、本件事故の発生については、訴外亡誠にも過失があるところ、その事故態様自体による過失割合は被告二・同訴外人八程度と考えられるが、なお、第二事故車が自動二輪車であるのに対し、第一事故車は普通乗用自動車あることにより、第一事故車側の被告に課せられるべきいわゆる優者危険負担の原則、同訴外人は死亡したという被害の重大性、その他諸般の事情を考慮すると、過失相殺としては、原告の前記損害の六割を減ずるのが相当と認められる。そうすると、原告の損害は一、一二六万円となる。

(七)  損害の填補

本訴請求原因(六)の事実は当事者間に争いがない。そこで、原告の前記損害から右填補分一、〇〇〇万円を差し引くと、残損害は一二六万円となる。

(八)  弁護士費用 一二万円

本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮すると、弁護士費用としては一二万円について相当と認められる。

(九)  以上の次第であるから、原告の本訴請求は、被告に対し、一三八万円および内弁護士費用を除く一二六万円に対する本件不法行為の日である昭和五〇年一月二九日から、内弁護士費用一二万円に対する本判決言渡の翌日から、完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度においては正当として認容できるが、その余の部分は理由がないので棄却すべきである。

二  反訴についての判断

(一)  原告の身分関係

反訴請求原因(一)の事実は当事者間に争いがない。

(二)  事故の発生

反訴請求原因(二)の事実は当事者間に争いがない。

(三)  責任原因

前記一の(三)の2で認定のとおり、訴外亡誠には速度違反、黄信号無視、前方不注視の過失があつたから、民法七〇九条により本件事故による被告の損害を賠償する責任があるところ、同債務は相続により原告が承継したものと認められる。

(四)  被害内容および損害

証人小張義太郎の証言により真正に成立したものと認められる乙第一号証、証人小張義太郎の証言、被告本人尋問の結果によれば、被告は、その所有の第一事故車を破損され、修理費として五四万二、〇〇〇円を要したことが認められる。

(五)  過失相殺

前記一の(三)の2で認定のとおり、被告にも過失があつたところ、同一の(六)で認定の本件事故態様による過失割合、優者危険負担の原則、その他諸般の事情を考慮すると、過失相殺として被告の前記損害の三割を減ずるのが相当と認められる。そうすると、被告の損害は三七万九、四〇〇円となる。

(六)  弁護士費用 三万八、〇〇〇円

本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮すると、弁護士費用としては三万八、〇〇〇円について相当と認められる。

(七)  以上の次第であるから、被告の反訴請求は、原告に対し、四一万七、四〇〇円および内弁護士費用を除く三七万九、四〇〇円に対する本件不法行為の日である昭和五〇年一月二九日から、内弁護士費用三万八、〇〇〇円に対する本判決言渡の翌日から、完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度においては正当として認容できるが、その余の部分は理由がないので棄却すべきである。

三  結論

よつて、本訴および反訴は、それぞれ前示限度において認容し、その余の請求はいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 熊田士朗)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例